大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所熊谷支部 平成4年(ワ)249号 判決

原告

杉澤一夫

被告

石澤繁好

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して、金九五三万五二三一円及びこれに対する平成二年一二月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は一項につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して、金一六二三万〇五二八円及びこれに対する平成二年一二月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  交通事故の発生

原告は、左記交通事故(以下「本件事故」という。)により負傷した。

(一) 日時 平成二年一二月八日午前四時ころ

(二) 場所 茨城県猿島郡総和町大堤

(三) 原告車両 自家用普通乗用自動車、土浦57つ7072

右運転者 原告本人

(四) 被告車両 普通貨物自動車 山形11か6157

右運転者 被告石澤

(五) 事故の態様 原告が宇都宮方向から東京方向へ運転中、本件事故現場交差点前で信号待ちのため、大型貨物自動車(栃11あ9072)の後方に停止していたところ、被告石澤運転の四トントラツク(被告車両)が、脇見運転のため、確認が遅れ、直進して追突したもの。原告車両は、ニツサンサニーワゴンであるが、前方の大型トラツクと、被告石澤運転の四トントラツク間に挟まれ、押しつぶされる形で、大破した。原告の生存及び後記傷害が不思議なほどの大破であつた。

2  責任原因

(一) 被告石澤は、脇見をしていたため、原告車両に気付くのが遅れ、本件事故を発生せしめたわけであるから、前方注意義務を怠つた過失があるので、民法七〇九条の責任がある。

(二) 被告村山運輸株式会社は、貨物運送業を営み、被告車両の保有者である。よつて、自動車損害賠償保障法三条所定の責任がある。

よつて、被告らは原告に生じた損害を連帯して賠償すべき責任がある。

3  傷害の内容及び治療の経過

(一) 傷病名

全身打撲、両下肢擦過傷、頸椎捻挫、右肩甲骨骨折

(二) 治療経過

(1) 猿島赤十字病院

平成二年一二月八日から一三日まで 入院六日

以後通院一日

(2) 医療法人長島外科病院

平成二年一二月一三日から平成三年一月四日まで 入院二三日

平成三年一月五日から同年四月二五日まで 実通院四五日

(3) 三井記念病院

平成三年四月二七日から同年六月一五日まで 実通院六日

(4) 自治医科大学附属病院

平成三年七月一八日から同年九月二七日まで 実通院六日

(5) 上三川病院

平成三年八月二三日から同年九月二七日まで 入院三六日

以上 入院日数計 六五日

通院日数計 五八日

(三) 後遺症の程度、等数

現在も頸椎捻挫及び右肩甲骨骨折によるとみられる右肩関節前部に頑固な痛み、運動障害が残る。

水戸調査事務所による後遺障害等級事前認定票によれば、一四級一〇号とされているが、これは頸椎捻挫のみを評価したもので、右肩甲骨骨折による運動障害を評価していない。一二級六号あるいは一二号と認定されるべきである。

原告は、実弟の経営する杉沢型枠解体において、いわゆるパネルはがしの力仕事をして来た。現在でも、仕事をする意欲はあるが、前記後遺症のため、右腕を以前のように使用することができず、昔の二割程度の仕事しかできない。体重も四キロ位減量し、現在では力仕事はやらず、電話の取り次ぎ及び車の運転を主にしている状態である。仕事の性質上、後遺障害についての労働能力喪失率表(労働基準局長通諜昭和三二年七月二日基発第五五一号)の基準から著しく乖離するケースである。

4  損害 合計金一六二三万〇五二八円

(一) 治療関係費 合計金一七二万八〇〇〇円

(1) 治療費 支払済みのため、請求外

(2) 入院雑費 金七万八〇〇〇円

一日一二〇〇円×六五日

(3) 入通院慰謝料 金一六五万〇〇〇〇円

入院六五日 二か月

通院実日数五八日×三 約六か月

(二) 休業損害

平成四年二月一九日まで、計金七五六万円を受領済みであるので請求しない。

(三) 後遺障害に基づく逸失利益・慰謝料

(1) 逸失利益 金九九九万二五二八円

一二級六号あるいは一二号

年収六五〇万円

労働能力喪失率 一四パーセント

喪失期間 一五年

新ホフマン係数 一〇・九八〇八

六五〇万円×〇・一四×一〇・九八〇八=九九九万二五二八円

(2) 慰謝料 金二四〇万〇〇〇〇円

一二級六号あるいは一二号

(四) 弁護士費用 金二一一万〇〇〇〇円

前記合計額の約一五パーセント

5  よつて、原告は被告ら各自に対し、損害賠償として、連帯して金一六二三万〇五二八円及びこれに対する本件事故日である平成二年一二月八日から右支払済みに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実は認める。

3  同3項(一)、(二)の事実は不知。

同項(三)の後遺障害等級は争う。一四級一〇号である。

4  同4項は争う。労働能力喪失期間が一五年というのは長期過ぎる。

三  抗弁

被告は、東京海上火災保険株式会社より、次の内容の支払いをしている。

1  休業補償費 平成四年二月一九日まで合計金七五六万円

右支払中、症状固定後の平成三年九月二七日後の金二七〇万円については、逸失利益として支払われている。

2  通院費雑費 金一三万九一七三円

3  治療費 合計金一五八万一二三九円

四  抗弁に対する認否

抗弁1ないし3項の支払を受けた事実は認める。但し、休業補償費金七五六万円は、全額休業補償として受領している。

第三  証拠については、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因1及び2項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、傷害内容、治療経過及び後遺障害について判断する。

1  成立に争いのない甲第二ないし五号証、第六号証の一ないし七、第七ないし一〇号証、第一一号証の一ないし六、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一三号証、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第一二、一四、一五号証及び右本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和二九年五月生れの健康な男子で、実弟の経営する杉沢型枠解体業で、作業を自らするとともに現場監督をして働いていた。

(二)  本件事故により、原告車両は、前後を押しつぶされる形となり、原告は、折れ曲がつたハンドルで左足を挟まれ、救急隊員によつて救助されるまで、放置されていた。

(三)  原告は、請求の原因3項(一)記載の傷害を負い、同項(二)の治療を受けた。

(四)  原告は、平成三年中の後半は、月七日から一〇日間程度、テスト的に出勤し、平成四年に入つてから、本格的に仕事を始めるようになつたが、思い物が持てなくなり、型枠解体の仕事自体はできなくなつて、業者と会つたり、打合せをしたりするような仕事や、従業員の送り迎え位しかできなくなつた。

(五)  平成二年分の給与所得の源泉徴収票では、年収額金六五〇万円であるのに、平成三年分のそれは、年収額金三五万二〇〇〇円、平成四年分のそれは、年収額金二二六万二〇〇〇円となつている。

(六)  原告は、常に痛みがあつて、右手が思うように上がらず、高い所の物を取つたり、ポリタンク等を持つこともできなくなり、ゴルフやボーリングもできない状態となつた。

(七)  平成三年九月二七日付けの診断書には、「運動時、肩関節前部に頑固な痛みを残す。…型枠解体の仕事を生業としているので、かなり重い物を持つたりの重労働にかなりの支障をきたす。本人の就業の意欲があるので職場復帰を勧めるが、かなりの困難をきたすと思われる。」と記載されている。

(八)  自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書では、「頸椎捻挫、右肩甲骨骨折」で、自覚症状として「局所の頑固な痛み」があり、各部位の後遺障害の内容として「僧帽節上部線維の緊張異常に強い。肩関節過剰域は良い。運動時、肩関節前部に頑固な痛みを残す。肩甲骨自体の骨折はX線上も良く治癒している。」とあり、障害内容の憎悪・緩解の見通しとして「局所に頑固な神経症状を残す」とある。

2  右認定の原告の障害は、後遺障害等級としては、一二級に該当するものと直ちに言えるものであるかの点に疑問がないとは言えないが、原告の従来の仕事の内容と、事故後の仕事の状況との対比等からすれば、労働能力喪失率が一四パーセントとされる一二級に相当する後遺障害があるものと認められる。

三  損害について

1  治療費合計金一五八万一二三九円が支払済みであることは当事者間に争いがない。

2  入院雑費 金六万五〇〇〇円

金一〇〇〇円×六五日分を相当とする。

3  入通院慰謝料 金一一〇万〇〇〇〇円

右金額をもつて相当と認める。

4  休業損害

平成三年中は、金三五万二〇〇〇円分の仕事しか出来なかつたものといえるので、金六五〇万円+金五四万円-金三五万二〇〇〇円=六六八万八〇〇〇円が休業損害となるが、これは、全額支払済みであり、当事者間に争いのない休業損害費目の金七五六万円の支払については、金八七万二〇〇〇円が逸失利益分に対する支払に充当されるものとなる。

5  後遺障害に基づく逸失利益 金六六九万二二三一円

労働能力喪失率一四パーセントの一〇年間を相当とする。

ライプニツツ係数の一一年の八・三〇六四から、一年の〇・九五二三を引いて算出する。

金六五〇万円×〇・一四×(八・三〇六四-〇・九五二三)=金六六九万二二三一円

6  後遺障害慰謝料 金一八〇万〇〇〇〇円

諸般の事情を総合考慮して、右金額を相当と認める。

7  以上の合計 金九六五万七二三一円

これから、金八七万二〇〇〇円を控除する。

残額 金八七八万五二三一円となる。

8  弁護士費用 金七五万〇〇〇〇円

認容額等諸般の事情に照らすと、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用は、金七五万円をもつて相当と認める。

四  以上の次第で、本訴請求は、被告らに対し、九五三万五二三一円及びこれに対する本件事故日である平成二年一二月八日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木正良)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例